「写植の時代」展に行ってきた
大阪開催のもじもじカフェ第33回「人の名づけに使える字」と立て続けに「写植の時代」展が開催されていたので、大阪のイベントだが泊まりで行ってきた。
モリサワ・MC-6型手動写植機
どーん。これが今回の展示のメイン。この機種は昭和42年に発表されたそう。現在もちゃんと稼働し、「実際に触って動かせる状態」*1で展示されている。自分はこれまでプロスタディオ(PAVO-KY)と亮月写植室(PAVO-JV, SPICA-QD)へ見学に行ったが、モリサワの写植機を見たのはこれが初めて。
正面から見た図。電子制御ではない全くの機械式だけあって、結構無骨。だがそれがいい。
2つある大きなラチェット(白い円形のもの)のうち、向かって左側のものが横送り制御用、右上のものが縦送り制御用。この歯車とマガジン(の中の印画紙)が連動して、印字位置を移動させる。送り単位の「歯」(H; 1H = 0.25mm)はまさにここから来ている。一目瞭然。
手前に伸びた白い2本のレバー(左は横組み用、右が縦組み用)を押し下げるとシャッターが切れて印字され、そして設定しておいた分だけ歯車が回って印字位置が送られる。
写口周辺。モリサワの文字盤は写研のものと比べるとなんだかごっつい。
この写植機は実際にその場で打って印字体験をすることができ、過去に写植業をされていた大石さん(id:works014)が指導に当たっていた。横で大石さんの説明を聞きながら、参加者の方が打つのを見ていたが、これがなかなか難しそう。
MC-6では文字の原点が仮想ボディの中央にあるので(センター・センター方式という)、今のフォントの座標系*2に慣れていると最初は戸惑う。左揃えのような単純なものでも、級数が違えばそれを考慮しないと揃わない。また、基本的にすべて手動なので、例えば「横組みの異級数下揃え」をしようとしたら半角送ったり、レンズを変えたり、送り量を変えたり、級数差を計算したり、上下に移動させたり、とにかくやることがいろいろある。機械式なので操作と結果が目に見えて直結しており、やっていることについてとりあえずは理解できるが、いざ自分一人でやるとなったら絶対に混乱してしまいそうだった。
しかも当然のことながらWYSIWYGなんてものではないので、頭の中でちゃんと仕上がりをイメージしておかなければならない。それだけでも、当時これを仕事としてやっていた人はまさにプロであり職人だったんだなぁ、と思わせられる。もっとも、これらは写植に必要な技能のごく一端にすぎないのだろうが。
その他の展示
その他にも会場にはいろいろな資料が展示してあった。以下、気になったものの中から2つだけピックアップ。
▲ これはモリサワの電算写植機のキーボードらしい。1つのキーに9文字が印字されている。これと左のナインキー(?)を同時に押すと、1文字が指定されて入力される多段シフト方式。漢字は左上から一寸の巾配列で並んでいる。これで入力してみたい!
追記:こちらも参照→ モリサワの電算写植のキーボード - しろもじメモランダム
▲ この2つはヤンマー専用の文字盤。社名のロゴタイプ*3や、ヤンマーの製品である農業機械に関連した文字が専用書体で並んでいる。これでヤンマーのカタログなどを作っていたとのこと。漁船を造っている関係だろうか、2枚目の左上には「艏」(おもて; 船首の意)や「艉」(とも; 船尾の意)といった珍しい漢字も並んでいる。位相文字と言えるかもしれない。
これ以外にも見本帳や取扱説明書、各種文字盤など、モリサワ・写研ともにいろいろなものが展示してあった。どれも実際に手に取って見ることがでるので、ついつい長時間見入ってしまったり。
写植解説講座と「写植の時代を語る」座談会
20日には写植解説講座、翌21日には「写植の時代を語る」座談会があったので、こちらも聴いてきた。
写植については、自分はこれまで『石井茂吉と写真植字機』『写真植字機五十年』『文字に生きる』『写真植字の15章』といった本を読んできた。そのような本から得られる知識はあったが、現場の様子についてはなかなか知ることができなかった。そういう意味でも今回の講座や座談会は、実際に写植を打ってらっしゃった方々から当時の様子を直接伺うことができ、とても良い機会になったように思う。「長時間働いたけどその分かなり儲かった」とか「写植は音がうるさい(=入居できるビルが限られる)ので同じビルに何軒も写植屋さんが入っていた」とか「やっぱりみんな写研の書体に憧れていた(笑)」とか、いろいろなエピソードを聴いて当時の雰囲気の一端を摑めたような気がする。
あと一つ、特筆すべきは座談会の話のおもしろさ。「関西人の話はおもしろい」っていうのは単なるステレオタイプなんじゃねーの、などとぶっちゃけ思っていたのだが、ところがどっこい、おもしろい。会場からは終始笑いが起こり、とても楽しく聴くことができた。