しろもじメモランダム

文字についてあれこれと。

ブラウザからローカルフォントにアクセスする:Font Enumeration API と Font Table Access API

最近の Web アプリはどんどんリッチになっていっていますが、ネイティブアプリとは違って、「ローカルフォント*1を列挙してユーザーに選択させ、それを表示に使う」といったことは仕様上不可能です。

例えば、画像に文字を入れる Web アプリを考えてみます。文字の描画自体は canvas の ctx.fillText() が使えますが、問題はフォントの指定です。ctx.font にローカルフォントを指定するためには、そのローカルフォントのフォント名を知っている必要があります。OS にプリインストールされているフォントでなどであれば、「Web アプリ側であらかじめフォント名のリストを用意しておき、実際にインストールされているかどうかをチェック*2してからユーザーに選択させる」という手段がとれますが、「自分でインストールしたこのフォントが使いたい!」という要求に応えるのは現実的ではありません。

提案中の2つの API

現在、Font Enumeration API・Font Table Access API という API が提案されています。まだまだ検討中のようですが、もし標準化までたどり着けば、この状態が解消されそうです。

Font Enumeration API が、ローカルフォントを列挙するための API です。先ほどの例でやりたかったことは、これで実現できそうです。一方の Font Table Access API は、ローカルフォントのテーブルのバイナリにアクセスするための API です。どちらも単機能で、かなりシンプルな構成になっています。

GitHub リポジトリの README によると、提案の動機としては以下のような感じです。

  1. プロ品質のデザインツールを Web 上に作ろうとすると、以下のような障害がある
    • Web アプリからはローカルフォントの列挙ができない
    • ブラウザは OS のフォントエンジンを使って描画するので、OS 間で差が生じる
    • (ネイティブアプリを Web アプリに移植する場合)自前のフォントエンジンはたいてい生のフォントデータを要求するものだが、Web フォントの仕様ではフォントのバイナリにアクセスできない
  2. Font Enumeration API と Font Table Access API を提供して、このような状況を解消したい

この記事では API の詳細には触れませんが、HarfBuzz/FreeType を WASM に乗せて、それにフォントデータを食わせて描画する、というようなユースケース挙げられています

ちなみにこれらの APIChromeChromium)では8月下旬に "Intent to Implement" になったようです。

ローカルフォントとプライバシー

しかしながら、ローカルフォントの情報は、個人を識別・同定しようとするフィンガープリンティングへの利用が懸念されます。従来では、例えばこんなふうに「フォント名のリストを決め打ちしておき、そのフォントがインストールされているか順次試す」というようなことしかできませんでした。ところが、Font Enumeration API と Font Table Access API が利用可能になると、情報をまるまる吸い出すことが可能になってしまいます。インストールの有無だけでなく、head テーブルや name テーブルから、フォントのバージョンを取得することもできます*3。フォントの販売・サブスクリプション方式によっては、ユーザー情報や固有識別子をフォントファイルに埋め込むものもあるでしょう。そうすると、ほとんど確実に個人を識別できてしまいます。

フィンガープリンティングへの懸念は、提案されている仕様書にも記述があります。また、「会社の PC にコーポレートフォントをインストールしていると、それだけで会社が特定できちゃうよね」というような例も挙げられています。

これらのプライバシー対策として、Font Enumeration API と Font Table Access API は、Permissions API でユーザーの許可を得てからローカルフォントにアクセスする設計になっています。本当に「プロ品質のデザインツール」だけが使うのであれば、これで落ち着くかもしれません。しかし万が一、いろんなサイトでやたらめったら濫用されるようになってしまったとしたら、許可を求めるダイアログがポコポコ出てきて、なかなかうるさい未来になるかもしれません。

Flash 時代のローカルフォント

ところで、過去はどうだったんでしょう? 実は、ActionScript には Font Enumeration API のようなものがありました。Font.enumerateFonts(true) を実行すると、ローカルフォントも含めてフォントを列挙することができました。このおかげで Flash 時代の画像加工ツールは、ローカルフォントによる文字入れが可能だったのですが、Flash の衰退・サポート終了によって不可能になり、表現力が落ちてしまいました。もちろん、プライバシー面では向上したのですが。

ちなみに、ActionScriptExternalInterface を使うと、「ActionScript で取得したフォント名をJavaScript に渡して要素のスタイルに指定する」というようなこともできました。ActionScript 側はこれと同じ感じのコードになります。実際に自分自身、内製ツールの開発で使ったこともあります。

ちなみにちなみに、当時は事実上、Flash がどこでも勝手に実行されるような状況だったので、「ページを踏んだ人のローカルフォントを列挙してこっそりサーバーに送信」というようなことが可能でした。フォント名を送信するだけでなく、「ローカルフォントで描画して送信」までしてしまえばさらに強烈ですね。フォント制作においては、制作中のフォントを自分の PC にインストールしてテストすることが多々あります。そのような状態で、悪意をもったページを踏んだ場合、制作中のフォントの情報が漏れてしまいます。言うまでもなく、わたしはやったことありませんが。

Font Enumeration API と Font Table Access API があれば、過去に Flash で実現されていた表現力を取り戻し、さらに高度な文字組みなどを発展させることができます。アクセスにはユーザーの許可が必要になるので、プライバシー面もある程度担保されます。ただし、「このフォントは OK だけどこれはダメ」のようなアクセス制御は今のところできそうにないので、フォント制作者はうかつに [許可する] を押せなくなるかもしれません…笑

その他雑感

  • Font Enumeration API で取得したフォントのリストを元に、ユーザーにフォントを選択させる場合、並べ方が大変そう
    • 各 OS のネイティブのフォント選択ダイアログがそもそもバラバラでわりと混乱している
    • Adobe 製品もまた独自だったり
  • 前節で書いたように、フォントごとのアクセス制御ができない
    • いっそのこと OpenType 仕様の方に「このフォントは Web API からアクセスしちゃダメ」フラグを新設するとか? :P
  • OS 間のレンダリングの差がなくなったとしても、互換性のためには全く同じバージョンのフォントが各端末にインストールされている必要がある。となると、ローカルフォントだけでなく、Web フォントとの連携も考えた方がよさそう?
    • 現状の Font Table Access API getTables()This method is only usable for local fonts, and will throw an exception if called for a web font.書かれている
  • プライバシーまわりの懸念点がどう決着つくのか気になる

実現すればおもしろいことはいろいろできそうですが、どうなるんでしょうね。

*1:ユーザーの端末にインストールされているフォント。デバイスフォントと呼ばれることも。

*2:適当な文字列のダミー要素を不可視状態で用意 → 要素にチェックしたいフォントを指定 → 指定前後で要素の幅が変わったかチェック、というのが常套手段でしょう。後述のフィンガープリンティングでも使われる手法です。

*3:フィンガープリンティングが目的であるなら、そんな丁寧なことをしなくても、バイナリのハッシュをまるごと取ってしまえば十分そうですが。

ベジエ曲線のなめらかさについて社内勉強会で語った

いまの勤務先にはエンジニア・デザイナーが持ち回りで発表する社内勉強会(FFTT)があるんですが、今週がわたしの当番だったので、ベジエ曲線のなめらかさの話をしました。

speakerdeck.com

デモとスライドを行き来しつつ、30分ほどの発表でした。

内容の補足

p. 10: G1 連続(接線連続)

Illustrator などには「スムーズポイント」という種類のアンカーポイント(始点・終点)がありますが、これは両方のハンドルが常に一直線になって動くので、G1 連続ということですね。

p. 14: 急カーブ注意の標識と曲率半径

「道路標識 R カーブ」あたりで画像検索するとわかりやすいかと思います。「R = 500 m」のように書いてあったりします。

p. 18: フォントエディタに搭載された曲率の櫛(curvature comb)

2017 年にリリースされた FontLab VI には標準搭載されています。G2 連続になるように、うまいこと自動調整してくれる機能もついています。

Glyphs や RoboFont では Speed Punk というプラグインが有名ですね。もともと、こちらの方が早くから開発されています。

デモの [G0 連続], [G1 連続], [G2 連続] ボタン

片方のベジエ曲線を調整して G0, G1, G2 連続にする機能で、calc.ts に実装があります。安直でナイーブな実装になっているので、ベジエ曲線の形や配置によっては、思わぬ結果になります。コーナーケースも考慮していません。

実際のデザイン支援に使うためには、ユーザーの意図に寄り添った「もっと頭のいい調整方法」が必要になります。

G0, G1, G2, … 連続

英語では geometic continuity といい、その頭文字をとって Gn と呼ぶようです。

Smoothness: Geometric continuity - Wikipedia

一般の n について、ちゃんとした定義をあまり把握していなかったのですが、弧長パラメータで n 回連続微分可能であれば Gn 連続、という理解でいいんでしょうか。

ちなみに、日本語のブログ記事などでは「ある程度の誤差を許した Cn 連続のことを Gn 連続と呼ぶ」という解説が散見されますが、こちらはちょっとあやしそうです。

雑感

フォントエンジニアにとっては常識レベルの内容だとはいえ、ブラウザ上ででグラフィカルにぐりぐり動かせるデモを作ってみるとやっぱり楽しいですね。今回の話、社内の業務にはまったく直結しないのですが、みなさんに興味深く聞いてもらえたようです。

ベジエ曲線を自由自在に使いこなしているデザイナーさんからも「なるほど!」「こういうことだったんか」というような反応をいただいて、発表した甲斐がありました 🍮

『[改訂新版] プログラマのための文字コード技術入門』を読んだ

年末に発売されていたので読みました。

[改訂新版]プログラマのための文字コード技術入門 (WEB+DB PRESS plusシリーズ)

[改訂新版]プログラマのための文字コード技術入門 (WEB+DB PRESS plusシリーズ)

どんな感じの本だかざくっと

タイトルに「プログラマのための」あるように、プログラミング経験者がターゲットになっています。ビット・バイト、2進数・16進数、ファイル、プロトコルのような「常識」についてはさらっとした説明で済まされているので、その分、文字コードの本質的な部分・実践的な部分の密度が高くなっています。文章が平易なので、読み進めやすいかと思います。

さらに内容をはっきりさせるのであれば、『「現代日本プログラマのための」文字コード技術入門』といったところでしょうか。この本は、日本で現在使われている文字コードの話が中心です。世界各地の文字コードだったり、歴史的な文字の符号化などにもおもしろい話はたくさんあるのですが、そこには深入りせず、実用的なテーマに絞って解説されています。国内での業務にすぐ役立ちそうな内容です。

第7章「プログラミング言語文字コード」では JavaRuby が題材になっていますが、他の言語でも基本的な概念は共通しています。それ以外の章では JavaRuby の知識はまったく要求されませんので、馴染みがなくても大丈夫です。その前の第6章が Web の話だということもあり、個人的には JavaScript も取り上げてほしいところですが。

初版との比較

この本(改訂新版)は第2版にあたります。初版は2010年2月に発行されています。

プログラマのための文字コード技術入門 (WEB+DB PRESS plus) (WEB+DB PRESS plusシリーズ)

プログラマのための文字コード技術入門 (WEB+DB PRESS plus) (WEB+DB PRESS plusシリーズ)

初版と改訂新版、左右に並べて目で diff をとりながら読みました。Unicode をはじめ、各規格・ツールの更新に合わせた細かな対応がなされていますが、こうして見比べてみると、文字コードの本質的な部分についてはほとんど変わらないことが分かります。Unicode 絵文字(2010年〜)についての記述も増えていますが、ここ数年の世界的な普及を見ると、第3版ではもっともっとページ数が割かれるもしれません(笑)

この期間における最大の変化は、UTF-8 の圧倒的な普及でしょうか。初版では、著者の「JIS X 0213 推し」な雰囲気が端々から伝わってきましたが、UTF-8 の普及がそれを取り込む・呑み込むかたちになりました。Web ブラウジングで文字化けに遭遇するようなこともめっきり減り、たまに出会うと懐かしさすら感じます。Shift_JISEUC-JP や ISO-2022-JP を知らずに、UTF-8 一本で暮らしていける世代がすでに出てきているはずです。「レガシー」文字コードから解放される一方で、Unicode の孕んだ複雑さと向き合う場面が増えそうですが……

ただし、「UTF-8 の圧倒的な普及」という印象は、自分が仕事で新しめの Web アプリケーションを触っているから、というのもあるかもしれません。大企業や役所の業務システムはいまどんな感じなんでしょうか。

メモと補足

p. 9 図 1.2

亜 哀 愛 悪 握 圧 扱 安 … 惑 枠 湾 腕

となっていますが、これは「旧」常用漢字の先頭部分と末尾部分ですね。2010年の常用漢字改定によって、「亜 哀 悪 握 圧 … 惑 枠 湾 腕」という並びになりました。

p. 193

IANA の登録簿には、……実際に使われている JIS X 0213 の符号化方式が登録されていないという問題もあります。

登録されていなかったんですね、知りませんでした。

https://www.iana.org/assignments/character-sets/character-sets.xhtml

需要がなかったのでしょうか……;;

p. 206

HTML のDTD において、「copy という名前は © を表す」という定義がなされているため、……

このあたりは HTML 4.01 の話です。HTML5DTD は存在しません。

p. 208

Shift_JIS を用いる場合はリスト 6.1 の例の「UTF-8」の部分を「Shift_JIS」に、EUC-JP の場合は「EUC-JP」にします。

HTML の <meta charset="hogehoge"> を説明している箇所です。ただし、この本が参照している HTML 5.2 には

Authors should use UTF-8. Conformance checkers may advise authors against using legacy encodings.

という説明があり、「UTF-8 を使用すべき」となっています。一方、HTML Living Standard ではさらに進んで

The Encoding standard requires use of the UTF-8 character encoding and requires use of the "utf-8" encoding label to identify it. Those requirements necessitate that the document's character encoding declaration, if it exists, specifies an encoding label using an ASCII case-insensitive match for "utf-8". Regardless of whether a character encoding declaration is present or not, the actual character encoding used to encode the document must be UTF-8.

という記述になっており、「UTF-8 を使用しなければならない」ことになりました。

p. 216

URL の中に、予約されている記号や、ASCII で表現できない文字を書きたいときには、URL 符号化という方法が使われます。

この本では触れられていませんが、ドメイン名部分は Punycode によって符号化されます。例えば、https://日本語.jphttps://xn--wgv71a119e.jp になります。

p. 222

クライアントからの送信に使われる文字コードは、HTML の form 要素の accept-charset 属性で明示的に指定することもできます。accept-charset="Shift_JIS" と指定すれば Shift_JIS で送信するということです。

HTML 5.2 では

[...] each token must be an ASCII case-insensitive match for one of the labels of an ASCII-compatible encoding.

となっています。一方、HTML Living Standard では

If specified, the value must be an ASCII case-insensitive match for "UTF-8".

と規定されており、こちらも UTF-8 固定になりました。

p. 226

最後に、これからの日本語メールの符号化がどうあるべきかを考察しました。

初版の名残です。初版では今後についての考察があったのですが、UTF-8 の普及により、改訂新版ではこれが削除されています。

p. 293 表 8.1

表のタイトルが「ベンダー依存の変換の問題の発生する代表的な文字」になっていますが、おそらく表 8.2からの編集ミスです。


[改訂新版]プログラマのための文字コード技術入門 (WEB+DB PRESS plusシリーズ)

[改訂新版]プログラマのための文字コード技術入門 (WEB+DB PRESS plusシリーズ)

type の話

はじめに

この記事は、Feedforce Advent Calendar 2018 の 23 日目の記事です。前日は、あおいさんによる「平成の終わりに非ヲタに聴いてほしいハロプロソング5選」でした。ハロプロ……自分が音楽に疎すぎて話が広げられないのですが、あれですよね、℃-ute が話題になって来たころ、こう文字コード的にチャレンジングなユニット名だな、などと考えていたのが記憶に残っています。

さて、ここから本題で、今回はとりとめもなく type について書いてみます。

type

type とはそのまま「型」なんですが、文字界隈のみなさんはご存じのとおり、活字だったり、その書体だったり、そのへんのものをざっくり type と呼びます。もう少しきっちり言うと、活字(スタンプみたいなあれです)は movable type で、いろいろ並べ替えて使える文字の型、といった感じでしょうか。活字を組む(並べる)ことは組版 typesetting ですし、活字の表面に凸状に浮かび上がっている文字の形は書体 typeface といいます。まんまですね。

活字を組んできれいな版面を作る技術がタイポグラフィ typography で、誤植の typo は typographic error の略らしいです。会社名や商品名の「ロゴ」はロゴタイプ logotype の略ですね。活字で文書を書く機械はタイプライター typewriter ですし、タイプライターを打つことはタイピング typing です。タイプライターを電信(電気通信)と組み合わせたシステムがテレタイプ teletype で、そこから来た TTY という略称・概念は、今でも Unix 系のシステムで目にします*1

あ、ちなみに金属活字は、母型(ぼけい)という鋳型に鉛合金を流し込んで鋳造するんですが、母といっても英語では matrix ですね。

f:id:mashabow:20181223233559j:plain
金属活字とその母型*2

現代のデジタルフォントはデータ以外に実体がありませんが、そのフォントフォーマットには TrueType や OpenType という名前がつけられています。フォントのデザイナーは type designer ですし、フォントを制作している会社は type foundry(つまり活字鋳造所)と今でも呼ばれます。わたしは前職、タイププロジェクトという会社でフォントのエンジニアをしていました*3

さてさて。

7月にそのタイププロジェクトを退職し、現在フィードフォースでフロントエンドエンジニア修行中です。自分が所属しているプロダクトで、TypeScript を導入しようということになり*4、ここしばらく TypeScript と格闘しています。

TypeScript。Microsoft が TypeScript を公開した2012年にこんなことをつぶやいていたのですが、

結局今年の夏まで勉強せずに来てしまったため、上記の type 好きとしては若干引け目を感じておりました。ちなみに文字界隈で script といえば「用字系」の意味ですね。

導入時の設定(tsconfig.json, TSLint, Babel, Webpack, …)に慣れていなくて苦労しましたが、文法や概念自体は比較的すんなり飲み込めた感触です。昔ちょっと触った C#ActionScript をふわっと思い出しました。入門者向けのガイドだと、ES201x 側の機能の説明にページが割かれているものが多かったんですが、その点、@vvakame さんの以下のサイトはコンパクトで、手っ取り早く学ぶにはちょうどよい感じでした。

入門レベルを脱した後も、Qiita 上の TypeScript x.y.z 変更点 記事にはいつもお世話になっています。

で、静的型付けや型推論、やっていることや仕組みはなんとなくわかるのですが、ちゃんとした仕組みについてはそういえば理解していませんでした。また、社内の関数型プログラミングに強いエンジニアから関数型プログラミング圧を感じることもあり、いい加減そのへん勉強しようかと、適当に検索して出てきた筑波大の講義資料でも読んでみました。

そしたら、なかなかおもしろいんです。型なしラムダ計算のあたりは自分も学部時代に講義でやって、おもしろいー!と思っていたんですが、その自然な延長で型付け・型推論ができるんですね。この次は何を読めばいいのかな、と思って「おすすめの(わかりやすい)本などあったら教えてください 🙏」と社内のフロントエンドミーティングで聞いてみたところ、以下のふたつをおすすめされました。

前者はちょうど読み終えたところなんですが、演習問題があって回答を自動で採点してくれるところがおもしろいですね。JavaScript は分かっている人向けです。英語の言い回しがちょっと難しい気がしますが、関数型プログラミングに対する苦手感(昔 Lisp を触ろうとしてどうも馴染めなかった)はだいぶ解消されました。この調子で、後者のすごいH本もこれから読もうかと思います。

おわりに

というわけで、近況報告も兼ねて、とりとめのない type の話でした。そのうち、「どちらの type にも詳しいです!!!」と言えるようになりたいですね。

明日の Feedforce Advent Calendar 2018@meihong さんです。なにやら、なにかしらハートフルな内容を書いてくださるようです。それでは良い休日を!

*1:テレタイプは文字コードの歴史的にもおもしろいので、興味のある方は『文字符号の歴史―欧米と日本編』あたりをどうぞ。

*2:2017年3月11日に開催された《タイポグラフィの世界5 戦後日本の金属活字》で展示されていたものです。

*3:NHK 美の壺 取材こぼれ話 のページの《2018年6月22日放送 「心を伝える フォント」こぼれ話》という項に、タイププロジェクトの職場の様子(と自分の顔面)がちらっと載っています。

*4:正確に言うと、Flow から TypeScript への移行です。

フォントまわりのツールの探し方

Twitter 上でとある鍵アカ氏が「このツール知らなかった! 使ってみたらべんり! 楽しい!」的なことをつぶやいていました。フォントの世界にはお役立ちツールがいろいろとあるのですが、日本語での情報が少ないこともあり、とっかかりが難しいかもしれません。そこでこの記事では、「ツールを探すならまずはここから」という定番の情報源を3つ紹介しておきます。

1. awesome-typography

github.com

フォント関連のさまざまなツールがリストアップされたリンク集です。ツールだけでなく、オープンソースのフォントや、フォント関連のドキュメントなども一緒に挙げられています。

プログラミング言語別に並んでおり、ごく簡単な説明もついていますので、「この言語でうまいことあれをやってくれるツールないかなー?」というときには真っ先にチェックすべきページです。

2. 技術カンファレンスの動画

フォント関係のカンファレンスというと ATypI が有名ですが、TYPO LabsRobothon のように、技術的側面に特化したカンファレンスも開催されています。定番ツールから尖ったツールまで、作者の解説や実演デモをじっくり見ることができます。以下のように動画が公開されており、カンファレンスに行かずとも視聴できるのが嬉しいところです。

3. TypeDrawers

TypeDrawers は、書体制作やレタリング、タイポグラフィに関する掲示板です。プロの書体デザイナーや開発者が多く、活発な議論がなされています。いくつかのカテゴリーに分かれていますが、ツールの話題を探すのであれば、下の2つがメインになるでしょう。

いろいろなスレッドが立ちますので、全部追いかけようとすると大変かもしれませんが、最新の動向や界隈の評判などをチェックすることができます。フォント界の Stack Overflow のような存在です。アカウント登録をして、やりとりに参加するのも良いかもしれません。

その先へ

以上、3つのソースをさらっと紹介しました。気になるツールや愛用のツールが出てきたら、そのツールのリポジトリ/フォーラムを覗いたり、作者の Twitter をフォローしたりすると、芋づる式に世界が広がっていきます。巨人の肩の上に乗って満喫しましょう。

追記:OpenType の仕様に興味が出てきたら以下の記事もどうぞ。

タイププロジェクト株式会社を退職しました

2018年7月10日付けでタイププロジェクト株式会社を退職しました。

大学在学中の2012年8月からタイププロジェクトの仕事をするようになり、その後タイプエンジニア(フォントエンジニア)として2015年4月に入社しました。あわせると、6年近くにわたってお世話になったことになります。

タイププロジェクトがコンパクトなチームだったこともあり、製品版フォントのプロダクション、フォーマット変換やカスタマイズ、内製ツールの開発、制作ワークフローの自動化・省力化、イントラの管理などなど、とにかくいろいろなことに携わることができました。仕事を始めた当初はほとんど何もわかっていなかったのですが*1、おかげさまで随分いろいろなことができるようになり、自信もつきました。フォントへの興味がますます深まったのは、言うまでもありません。

タイププロジェクトに参加するまであまり想像していなかったのですが、実際の仕事では、タイプデザイナーなど他のメンバーとのコミュニケーションが頻繁に発生します。「こういう機能がほしい」「こんな感じならできるけど」とやりとりしながら開発を進めていく過程は、なかなか楽しいものでした。まわりの方が協力的で、この点において恵まれた環境だったと感じます。

ちなみに、明日からは別の会社にフロントエンドエンジニアとして入社します。文字関係の仕事ではありません。エンジニアとしてあらためて基礎固めを行い、実践的なチーム開発のスキルを身につけることができれば、と考えています。

仕事としては文字から離れることになりますが、あいかわらず興味は尽きませんので、これからもこのまま趣味として続けていきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

*1:Python を身に着けたのも実はこのときです。

Python パッケージとして再構成された AFDKO 2.7 がリリース

AFDKO の新バージョン 2.7.0 が先週リリースされました。AFDKO は、フォント開発のための Adobeコマンドラインツール集です。

github.com

Python パッケージ化

今回の大きな変更点は、AFDKO の中身がひとつの Python パッケージへと、がらっと再構成された点です。

The AFDKO has been restructured so that it can be installed as a Python package. It now depends on the user's Python interpreter, and no longer contains its own Python interpreter.

https://github.com/adobe-type-tools/afdko/tree/2.7.0#major-changes

すでに PyPIafdko パッケージがアップロードされていますので、普段の Python パッケージと同じく、以下のコマンドでインストールすることができます。

$ pip install afdko

従来(2.5 まで)の AFDKO は、スクリプトやバイナリ等が Python インタプリタとともに ZIP で固められて配布されており、AFDKO 中の Python スクリプトは、必ずこのインタプリタを使って実行されるようになっていました。また、これを実現するためにインストール方法やパスの管理が独自のものになっており、少々扱いづらい面がありました。

Python パッケージへの再構成作業は2017年末ごろからスタートし、ベータ期間(2.6 がこれに相当)を経て、今回の 2.7.0 をもってめでたく正式リリースとなったようです。この Python パッケージ化によって、以下のようなメリットが享受できそうです。

  • インストール/アンインストール/更新が、おなじみの pip で行えるようになる
  • バージョンの固定や切り替えが容易になる
  • 他の Python パッケージと組み合わせて使いやすくなる
  • パッケージのビルド方法やテスト方法が整備・明文化される

AFDKO 開発の盛り上がり

AFDKO の開発は、Adobe のエンジニアが中心となって進められていますが、昨年まではあまり活発には見えませんでした。バリアブルフォントへの対応などは進められていたようですが、発展著しい fontTools などと比べてしまうと、地味な印象がありました。また、AFDKO には

  • コードの可読性が低い
  • テストがほどんどない
  • 古い C のコードが多い
  • バグ報告やプルリクエストがなかなか対応されない
  • バグがあっても自分では直しにくい
  • Python 2

などのつらい面も多々あり、個人的にはここ数年、fontTools の方を利用する機会が圧倒的に多くなっていました。

しかしながら、昨秋ごろから開発が加速し、現在に至るまで活発な状態が続いています。

内容としては、コードのリファクタリングやテスト・CIの整備といった基礎的な部分の改善が大きくなっており、前述の Python パッケージ化も、その流れの中で実施されたように見えます。Python 3 をサポートするための作業も始まり、明るい未来が見えてきた感じがします。

期待を込めつつ、これからも引き続き AFDKO の動きに注目していこうと思います。