同型類字集 明朝体
前回の記事「同型類字集 等線体」のつづきです。
『同型類字集 等線体』の方は昭和17年(1942年)12月発行でしたが、こちらの『同型類字集 明朝体』は3ヶ月後の昭和18年(1943年)3月発行となっています。等線体が明朝体になっている以外は、まったく同じ体裁・内容のようです。
上の画像をクリックすると、Flickr でファイルが閲覧できます。例によって PDF にまとめたものも用意しましたので、必要な方は下のページからどうぞ。
例示されている明朝体を見てみると、やや直線的で整理された感じの雰囲気になっています。字体の省略や簡略化も見られますが、この処理は等線体のものと完全に一致しているようで、字体の整理・統一への意識が読み取れます。
他の明朝体と比べて特徴的なのは、撥ねの処理でしょうか。上の画像でわかるように、「力」や「巾」の撥ねが省略され、終筆を止めています。その一方で、「刂」や「寸」の撥ねはそのままの形で残っており、ちょっと不統一な感じもします。この撥ねる・撥ねないの間に、なにか法則性はあるんでしょうか…? わかる方いましたらぜひ教えてください。
さて、上の画像の左ページは表紙裏にあたる箇所ですが、ここにはこんな注意書きが書かれています。
一、一般字典ノ例ニ拠ルコトナク結体又ハ点画ヲ同シウスルモノニ分類編纂シ以テ練習ニ便ナラシム
二、本所載以外ノ文字ヲ必要トスル場合ハ末尾ニ添付シアル扁旁部首ニヨリ所要ノ扁旁冠脚等ニ供シ得ル文字ヲ選出シ適宜組成スルモノトス
煩字及略字ハ別ニ示ス備考
本類字集ノ字画ハ普通大ノ註記ニ適用スル為メ定メタルモノニシテ字高大ナル註記ニ在リテハ字典ヲ参照シ点画ヲ適宜粉飾スルコトヲ得
といっても、個人的に気になるのはその内容ではなく、印刷されている文字の方です。地図や海図の製作には早くから写植が導入されていたようですが、このページの文字も写植で打たれており*1、写真植字機研究所(のちの写研)の明朝体のように見えます。しかしよく見てみると、2行目の「習」や3行目の「場」など、普通の明朝体とはちょっと変わっていませんか…?
どうもこれは、この『同型類字集 明朝体』で示されているとおりに、写植の明朝体を修整しているようなのです。さらによく見てみると、1行目の「據」や2行目「編」などの撥ねも、しっかり取り除かれていることがわかります。写植で普通に印字したものを器用に修整したんでしょうか。それとも独自仕様の明朝体の文字盤なんてものがあったんでしょうか。いずれにせよ、なかなかのこだわりです。
この『同型類字集』と関係あるのかないのか、『地図用文字』なる本があると知ったので、こちらも気になる今日このごろです。
機械彫刻標準書体がまたプチ盛り上がりをしてたようなので、たしか昔見本帳買ったような……と思ったら全然違った。『地図用文字』だった。地図に使われる書体は「等線体」といって均等な太さの線で書かれた文字ですが郡名には隷体を使うみたい pic.twitter.com/kAH0y4Jhb9
— ばるぼら (@bxjp) 2015, 11月 24
*1:巻末の「扁旁部首」もそうです。