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もじもじカフェ「中華書体事情」前編

もじもじカフェ > 第11回「中華書体事情」

今回のゲストはダイナコムウェアの小畠正彌(こばたけ・まさや)さん。中華圏の看板・印刷物において、書体がどのように使われているのか?というのが今回のテーマ。

以下、内容を簡単にまとめてみる。用語は繁体・簡体の両方で示すのは面倒なので、日本の字体のまま。文中の「中国」は主に中華人民共和国*1を指すが、一部では台湾を含んだ総称として使用しているので注意。

繁体字簡体字

繁体字 fántǐzì
台湾・香港・マカオなどで使用。漢字の構成要素が省略されていない、伝統的な字体。
簡体字 jiǎntǐzì
中国・シンガポールなどで使用。構成要素が省略された字体。

上の「簡体字」は、厳密に言えば次のように(狭義の)簡体字と簡化字 jiǎnhuàzì に分けれられる。

簡体字
字全体が簡略化されたもの。
簡化字
偏旁など、字の一部が省略されたもの。

これが本来の定義だが、複数のネイティブに聞いてみると次のように意味にズレが生じている様子。

簡体字
国家規格で制定されている字体。(例:貳→贰)
簡化字
国家規格で制定されている字体とは別の、手書きするときの略体。(例:貳→弍)

中国の文字規格には簡体字だけでなく繁体字も含まれているが、この繁体字は台湾と字形が異なるものもある。逆に台湾の文字規格には簡体字は含まれていない。

大陸での基本書体

宋体 sòngtǐ
明朝体。印刷物の本文はほとんどこれ。ボールドは見出しに用いられる。
黒体 hēitǐ
ゴシック体。見出しに用いられる。細いものは本文にも。
楷体 kǎitǐ
楷書体。新聞などでは共産党からの情報に用いられる。他には発言・条文の引用、前文などに。
仿宋体 fǎngsòngtǐ
宋朝体。前文などに用いられる。かつては党の公文書、契約書に用いられていた。

この4書体が基本で、あとはほとんどポップ系の書体。他には唐代などの書からとった書体が特徴的。

書体デザインの違い

とにかく「中国が漢字の本家」というプライドが強く、中台間でも確執(?)がある。同じ漢字であっても日中台で好みが違い、台湾の人が中国のフォントを見ても違和感を覚える。制作現場でも、日本向けの書体であっても(頭では分かっているものの)伝統的な形を残そうとしてしまう。中国の印刷物には非漢字がほとんどなく、日本人が見て違和感のない かな を作るのはやはり難しい。日本人がアルファベットを作るときと同じで、普段見ていない字は作れない。

明朝体のデザインを見てみると、中国のものは全体的に「腰高」、すなわち重心が高めだと言われている。台湾のものは比較的日本と似ている。

上海・北京の看板

よく使われている特徴的な書体は、スーボっぽいもの(重ね丸ゴシック)、創挙蘭・綜藝体系のもの、そして流隷体。縦書きはほとんどなく、大部分は左→右の横書き(政府がこれ以外は認めていないらしい)だが、昔からある扁額などはそのまま右→左*2になっている。

参考:左からスーボ(BSU)、創拳蘭E(ESR)、DF流隷体W7。

後編に続く。

*1:正確に言えば、そのうちの簡体字が使われている地域。

*2:実態は一行一文字の縦書き。