しろもじメモランダム

文字についてあれこれと。

斜めの分数を組むための活字

算数の授業で習った分数の書き方は、横線を引いて下に分母、上に分子を書くというものだった。一方、実際の生活では 1/2 や 34/56 といった表記もよく使われる。こちらはキーボードでもすぐに入力でき、また行の上下に出っ張ることもない。なかなか便利。

英語ではいろいろな呼称があるようだが、前者を horizontal fraction、後者を diagonal fraction などと呼ぶらしい。日本語ではなんで呼ぶんだろう。とりあえず、「縦*1の分数」「斜めの分数」とでも呼んでおく。

この斜めの分数、スラッシュの前後に普通の数字を並べただけのもの(1/2 とか 3/45 とか)が日本の印刷物では割と使われているが、下のように数字が上付き・下付きになっているものもある*2

詳しいことはよく知らないが、数字が上付き・下付きになっている分数の方が、普通の数字を並べただけのものよりも好ましい?らしい*3。また、分子・分母の間の線は solidus という記号で、slash よりも傾きが大きくなっている。ただし、ややこしいことに Unicode での呼称には下のようにズレがある。


Wikipedia:分数 では、solidus*4 と HTML の sup/sub 要素とを用いて 123456 のように表示させている。

さて、ではこの斜めの分数、活字ではどのように組んでいるのだろうか。もちろん、½, ¼, ¾ などよく使うものはそれで一つの活字になっているが、それだけでは 34/56 などは組めない。

デジタルフォントであれば、solidus の送り幅を狭くしておけばよい。solidus の両端が仮想ボディから飛び出るように*5しておけば、数字を並べたときにちゃんと食い込んでくれる。金属活字でもそのように作ったアルファベットはあるが*6、張り出した部分は折れやすく、なかなか扱いづらいと聞く。

で、とある本*7を読んでいたところ、こんな風になっているものを見つけた。通常の上付き・下付き数字に加え、「solidus の左下半分がついた上付き数字」「solidus の右上半分がついた下付き数字」がある。つまり4系統、計40種類が数字が用意してあったようだ。

分子の最後の桁、および分母の最初の桁にこの半分 solidus つき数字を使えば、組み合わさってちゃんと斜めの分数になる。なるほど、よくできている。

ちなみに、縦の分数についても専用の活字があったらしい。

「分子用上付き数字」「分母用下付き数字(横線つき)」の2系統。どちらもボディの大きさ(縦方向の長さ)は通常の半分で、上下に組み合わせて使うようになっている。

*1:ここでは縦に数字が並ぶので「縦の分数」としたが、英語では「horizontal bar を使うから」ということで horizontal (bar) fraction となっている。ただ、同じものを vertical fraction と呼ぶこともあるらしい。cf. Glossary H - Fonts.com

*2:½, ¼, ¾ などは、大抵のフォントにこの合成済みの形が収録されている。

*3:{ What's the correct way to use fractions like 1/2 } | Typophile にはこんな風に書かれていたりする。Typeset fractions that are composed merely of a numeral followed by a slash and another numeral (3/4) are to be avoided at nearly all cost. 詳しくはリンク先参照。

*4:U+2044 FRACTION SLASH の方。ややこしい。

*5:つまり、左右のサイドベアリングが負になるように。

*6:例えば http://fezn.exblog.jp/6402750/ の画像の F と Z。

*7:東崎貢『著者並びに当業者に必要な科学もの活版印刷術の常識』東崎印刷合名会社, 1932, p. 9