しろもじメモランダム

文字についてあれこれと。

もじもじカフェ「中華書体事情」後編

前編からの続き。へんな時間に更新。

新聞・雑誌の組み方

(ここらへんは見るのに夢中であまりメモをとっていない)

  • 中国の新聞
    • 横組。
    • 基本的に本文は明朝体、見出しは明朝体かゴシック体。
    • 段落の頭は2字下げが基本。
    • カギカッコの代わりにダブルクオート「“”」を使う。
    • 句読点は「,」「。」を使い、並列の中黒「・」の代わりに「、」を使う。
    • 「卡洛斯・戈恩」(カルロス・ゴーン)のように、外国人*1の姓名の区切りに中黒を用いる。
    • 「;」「:」は普通に使われており、「?」「!」「〜」「«»」「――」なども。
    • 禁則処理はあまり考えられておらず、行頭に中黒が来ているところも。
  • 台湾の雑誌
    • 縦組もあり。
    • 本来2字下げだが、1字下げにする組み方も。
    • 横組であろうと縦組であろうと、「,」「。」「、」はマスの真ん中に置かれる。
    • 「;」「:」は縦組でも向きが変わらず、点が上下に並んだ恰好のまま。
    • カギカッコを使う。
    • 禁則処理は(欧文の単語を除いて)全く行われていない。

とにかく、組版に対する意識は薄い。

質疑応答

フォントのパッケージが中国で売れていない理由は? 「フォントを買う」ことに対する感覚は? 売れているフォントベンダは?
中国では、フォントに限らず正規のソフトウェアを「買う」という発想がなく、ソフトウェアのマーケット自体がない。ダイナコムウェアだけでなく、他のベンダのパッケージも売れていない。最近では当局も少しは神経を尖らせている様子。
ネットで目にした((
//fezn.exblog.jp/2204525/" target="_blank">http://fezn.exblog.jp/2204525/ など。))「明朝体より宋朝体の方がフォーマル、好まれる」といった説は本当?:本当。昔、契約書を宋朝体で作ったら「お、よく分かってるね」という反応をされた。特に年配の人は、そのような意識がまだ強く残っているのではないか。かつては人民日報も宋朝体の縦組だった。現在は明朝体に切り替わっているが、これは横組になったことで宋朝体では読みづらくなったのが一因では。
写真を見ていて、中国は昔ながらのゴシック、台湾はゴナ・新ゴ系のモダンなゴシックが多いように感じたが、実際はのところは?
そのとおりだと思う。アーフィックやダイナといった台湾のベンダは日本にも進出しており、そこでモダンゴシックの影響を受けたのではないか。中国には「マーケットがない」ので、それにより新しいフォントがなかなか生まれないのも一因では。
中国のフォントが腰高なのは横組の影響?
横組の影響かはよく分からない。台湾のアーフィックやダイナは(活字や写植ではなく)デジタルフォントになってから書体制作を始めたが、その際に日本の影響を受けているので、台湾と日本では比較的雰囲気が似ているのではないか。
字形差に対する意識は?
GB 2312GB 18030 など中国の文字規格は国家規格なので、強制力が大きい。逆に台湾の文字規格 Big5 は民間の規格なので、ベンダごとに字形が違うこともある。台湾にも国定の教育用字形はあるが、一般に販売されているフォントは Big5 がベース。
中国が簡体化をこれ以上推し進めないのは?
省略しすぎると似たような字が多くなり、また文字が「記号化」して文字同士の繋がりが薄れてしまうからでは。簡体字繁体字の変換は簡単そうに見えるが、一対多対応のもの(「机」⇔「機・机」など)もあるので一筋縄ではいかない。述語などは中台で表記が違っているものも多い。
中国で繁体を使うのは違法?
中国には「政府で定めた文字を使うこと」という法律がある。この「政府で定めた文字」というのは、国家規格の GB 18030 を事実上指している。GB 18030(約27000文字)は旧規格の GB 2312(約7000文字)の上位規格で、繁体字や日本の漢字、少数民族の文字も含む。2005年には約70000文字に拡張された。工業製品や情報交換の分野では GB 18030 を使わなければならない
中文を組むのに必要な文字数は?
GB 2312 では人名・地名に使う漢字で含まれていないものがあった。GB 18030 であればまず足りる。
台北のホテルの非常口表示に勘亭流が……
使った人は全く気にしていなかったのでは?
看板以外で篆書・隷書は使われる? 印鑑は?
篆書や隷書は少ない。日常で使われるのは印鑑ではなくサインなので、印は書画の落款ぐらいにしか使われない。
名の通った書体デザイナは? 日中台で「優れた」書体デザイナは?
名の通った書体デザイナはいない。著作権やライセンスに対する意識が高まればいずれは出てくるのでは。中台のデザイナはプライドが高いので、日本のデザイナが日本向けに作ったフォントであっても認めようとはない。
書体デザイナになる人の経歴は?
特に決まっているわけではなく、「作ってみたい」という人が入ってくる。ビットマップフォントなどは技術寄りの人も。
欧文書体デザイナの小林章さんが「日本の書体デザイナは中国に追い越される」と[http
//doitunikki.exblog.jp/7104702/:title=言っていた]が?:中国は分母が大きく漢字に対する強いプライドもあるので、将来はそうなるかもしれない。
ダイナでのフォント制作の過程は?
まず12文字を作る(ストロークベース)。これで「丿」「丨」といったストロークを決定する。これを基にして330字まで増やす(ラジカルベース)。この330字から「亻」「口」などの部品ができる。ここまでが書体デザイナの仕事。次に、コンピュータでこの部品を基に残りの漢字すべてを生成する。最後に、50人のオペレータが文字を修整して完成。書体の性格付けなどはあまり考えない。
かな部分の制作は?
明朝体・ゴシック体など基本書体は字游工房の鳥海さんにお願いした。今はすべて、台湾で制作したものを日本側で監修している。
英数字が小さいのは?
(日本では他の欧文書体と混植したり、サイズ・ベースラインを調整するが、)中台では従属欧文をそのまま組んでいる。組む側も読む側も気にしていない。

雑感

なかなか興味深い話だった。特に質疑応答明朝体宋朝体の話は、実は前日に FeZn/Bookmark のログをガーッと読み漁っているときに初めて知ったのだが、小畠さんによると実際にそういった意識があるとのこと。なるほど。中台でのゴシック体の違いは昔から気になっていたが、日本からの影響やマーケットの違いといった理由を聞いて大いに納得。中文フォントが簡単にダウンロードできてしまうのは知っていたが、フォントベンダに勤めている小畠さん自身から「パッケージが全く売れていない」と聞いて衝撃を受けた。どうも自分の予想が甘かったようだ。

中台の新聞をいただいたので、それについていずれ何か書くかも。

*1:でも日本人には使わない。どういった基準なんだろう。「名・姓」だけ?