Adobe-Japan1-6 の「鋋」のヒゲ
GlyphWiki を触っていて気づいたことその2。
鋋 のえんにょう部分、ヒゲ(筆押さえ)の有無について。
以下、隣の符号位置にある 鋌 と比較しながら見ていく。
鋋 | 鋌 | |
---|---|---|
UCS/Unicode | U+92CB | U+92CC |
JIS X 0212 | 68-26 | 68-27 |
JIS X 0213 | 1-93-16 | 1-93-17 |
規格票の字形
JIS X 0212/0213 の規格票*1では、鋋 鋌 の両方にヒゲがついている。
UCS (ISO/IEC 10646) のJ欄も、(JIS X 0212-1990 がソースなので当然)ヒゲつきの字形。
ここまでは何も問題なし。
Adobe-Japan1-6 の例示グリフ
下のように、対応する CID は 鋋 も 鋌 もそれぞれ一つずつのみ。
鋋 | 鋌 | |
---|---|---|
UCS/Unicode | U+92CB | U+92CC |
Adobe-Japan1-6 | 15229 | 15230 |
で、不思議なのが The Adobe-Japan1-6 Character Collection*2 にある例示グリフ。使われているフォントは小塚明朝 Pr6N R。
鋋 にはなぜかヒゲが無い。鋌 の方にはちゃんとついてるのに。
CID+14926〜15385 は JIS X 0212-1990 の規格票字体から採られている*3らしいが、鋋 のヒゲの有無については規格票とズレがあることになる。鋌 はどちらもヒゲありなので、問題なし。
鋋 | 鋌 | |
---|---|---|
JIS X 0212/0213 | ||
Adobe-Japan1-6 |
↑要するにこんな感じ。
各フォントでの実装
ヒゲの有無に関してはフォントによってそれぞれポリシーがあるようだが、この 鋋 鋌 はどのように実装されているのだろうか。ヒゲありを緑、ヒゲなしをピンクで示してみる。
ヒラギノ角ゴとIPAフォントはヒゲなしポリシー、ヒラギノ明朝とMS書体はヒゲありポリシーを採用しているようだ。意外なのがメイリオ。Adobe-Japan1-6 の小塚明朝に忠実な実装になっている。
モリサワのフォントではこのように、リュウミンが「鋋なし・鋌あり」と小塚明朝型。同じモリサワでも、ゴシックMB101と新ゴはヒゲなしで統一されている様子。
で、
どうして Adobe-Japan1-6 の 鋋(CID+15229)がヒゲなしになっているんでしょうか。何か根拠があってのこと? 単なるミス?
追記(2008-09-18 18:40)
いただいたコメントに返信。バラバラですが。
NAOI > Adobe-Japan1-4の最初の版(31 March 2000)では、例示用のフォントにリュウミンProが使われていて、やはりCID+15229のほうだけヒゲなしとなっています。想像ですが、リュウミンに以前からある字形を流用してAJ14の最初の版を作成し、それを参照して小塚明朝の字形を設計した、という流れなのかもしれません。
なるほど!
Adobe-Japan1 で例示に使われている書体は、平成明朝体 W3 → リュウミン L KL → 小塚明朝 L → 小塚明朝 R と移り変わっているようですが、鋋 鋌 が入ったのはリュウミンのときだった、というわけですね。だからリュウミンが小塚明朝型になっている*5、と。納得です。
明朝体のデザイン差に拘泥する必要はない、というのはその通りだと思うのですが、「Adobe-Japan1 はそういった細かい箇所についてまでもキッチリ厳格」だという勝手なイメージ(というか先入観というか)があったので、このエントリを書いてみました。なので、
NAOI > Adobe-Japan1-4に含まれる補助漢字用のグリフについては、’hojo’タグでマッピングを修正された例を見る限り、規格票例示字形との間にけっこうズレがある気がします。
というのには驚きです。
かつみ > <金延>(CID+15229)がどうであれ、これをどう実際にどう作るかはフォントデザイナーの腕の見せ所です。ゴシック体までAdobe-Japan1-6小塚明朝に忠実に作ろうとするMeiryoの定見のなさ、臆病ぶりは嘆かわしいと私は思っています。
メイリオのグリフセットは、漢字に限定すれば Adobe-Japan1-5 と同じ
*6 とのことなので、メイリオは Adobe-Japan1 を「忠実」に参照して作られたのでしょう*7。確かに、私もゴシック体にヒゲは不要だと思いますし、ヒゲなしポリシーを採った方が良かったのではないかと感じます。
さらに追記
Adobe-Japan1-4 で追加された補助漢字用のグリフ(CID+14296〜15385)について、JIS X 0212 の字形とざっと比較してみた。
*1:0212、0213のどちらも平成明朝体、同じ字形で印刷されている。画像は JIS ハンドブックにある JIS X 0213 の符号表から。
*2:[PDF] http://www.adobe.com/devnet/font/pdfs/5078.Adobe-Japan1-6.pdf
*3:[PDF] http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/48/8/487/_pdf/-char/ja/ 3ページ目(p. 489)表2参照。
*4:ヒラギノは Pro/ProN、MS書体は ver. 2.30/5.02 で確認したが、字形に差はなかった。
*5:と書いたが、「小塚明朝がリュウミン型になっている」という表現の方がより正確だということになる。