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文字についてあれこれと。

昭和3年『校正の研究』の活字の解説

先日うわづら文庫の存在を知った。中身をちょっと眺めていたところ、『校正の研究』という本を発見。「未整理」にある kosei_kenkyu.pdf というファイルがそれ。奥付によると大阪毎日新聞社校正部編、昭和3年(1928年)9月25日発行。ちなみにこの PDF は659ページもある。

とりあえず「活字の知識」と「校正記号」という項を読んでみた。合わせて20ページほどだが、なかなかおもしろい。

「活字の知識」から一部抜萃してみる。

一般の印刷物における普通活字の書体は、「明朝」といふものである。本木翁ははじめ清朝の書体にならつて、楷書体といふのを採つてゐたが、その後新に字母をつくるにあたり、便宜上、明朝の康煕字典から、一々文字を切抜いて版下にした。これが明朝の名の起りである。これについで、最も多く用ひられるのは、「ゴシツク体」(わが社などではゴジツクといふ)で、いはゆるゴシツク式建築から工夫された欧文活字を模したものである。明朝体の文字は、横の線が細く、縦の線が太くて、すこぶる読みやすい。また、ゴシツク体は、縦も横も、同じやうに線が太くて、刺激が強い。たゞしその濫用は、印刷面をきたなくするうれひがある。そこで、雑誌新聞は、印刷面の調和と均斉とを保つために、明朝を主とし、見出しその他特殊の場合に限り、ゴシツクを用ひてゐる。活字の書体は、このほか、楷書(清朝とも書く。清朝の書体といふ意味であるが、あやまつてセイテウとよんでゐる)隷書、行書、南海堂、フアンテル、丸ゴシツクなど、使用の範囲の極めて狭いものがあるにすぎない。いはゆる欧文活字(アルフアベツト活字)は、字数がすくなくて、容易に好きな書体をつくることができるので、非常に種類が多く、ほとんど無限といつてもよいが、わが国の活字は多数で複雑な漢字の関係上、種類もすくないのである。

『校正の研究』第五、校正の方法 > 一、活字の知識 (pp. 74–75)

書体について。「ゴシック体はゴシック建築から」「清朝体をセイチョウと読むのは誤り」という説も。

わが国の新聞事業が、このやうに、まつたくかたわの状態にあるのは、――いな、新聞社といはず、その他すべての印刷事業が、執筆と組版の点において、はなはだしいハンヂキヤツプをつけられてゐるのは、どういふわけであるか。いふまでもなく、千数百年来、わが国字となつてゐる「漢字」の影響にほかならない。これがわが印刷業の発達を妨げる根本的病所なのである。「手」による原稿、「手」による組版が、どんなに多くの誤謬を生むか、わが校正が、外国にくらべて、一層困難なのは、これらの手わざと、活字数のあまりに多いことにある。かうして原稿や組版の難渋、漢字の多数と複雑から起る活字の誤と、絶え*1ざる戦をするものが校正者なのである。

『校正の研究』第五、校正の方法 > 一、活字の知識 (pp. 78–79)

校正者から見た国字論。

また「校正記号」の項では、校正記号や活版用語がいろいろと挙げられている。

せっかくなので

読んだ部分だけでも検索できるようにとテキストに起こしてみた。

検索の便を考慮して、漢字は通行の字体に改めた*2。仮名はそのまま。……中途半端な気がしないでもないけど。こういうテキストって、どういう方針で起こすのが一番いいんだろうか。

とりあえず、予想以上に骨の折れる作業だと実感。

*1:「え」は「江」の草体

*2:入力面倒そうだったし。