しろもじメモランダム

文字についてあれこれと。

アイヒャーと Rotis

オトル アイヒャー タイポグラファと「ホモ ポリティクス」

朗文堂のイベントに行ってきた。タイポグラファのオトル・アイヒャー(Otl Aicher, 1922–91)についての講演。タイポグラファを語るときには、その人の作品や仕事に関しての話が中心となることが多いが、この講演ではアイヒャーの思想や哲学などにスポットライトが当てられている。私は(思想や哲学に思いを巡らすこともなく)普段からのうのうと生きているので、今日の話は新しい見方でなかなか噛みごたえがあった。

さて。

Otl Aicher - Font Designer of Rotis

上のリンクにあるように、アイヒャーは Rotis(ローティス)という書体の制作者。会場でお会いした狩野さんにも写真で見せていただいたが、Rotis といえば小田急新宿駅*1



「e」や(上の写真にはないが)「c」の口が開いているのが特徴的。Rotis には Sans Serif, Semi Sans, Semi Serif, Serif の4系統があるが、小田急で使われているのは Semi Sans。この Semi Sans は(Optima ほどではないにせよ)縦横の線の太さに差がつけられているので、JR の Helvetica や京王の新ゴと比べると、ちょいと上品な、かつそれでいて親しみやすい感じを受ける。

欧文書体百花事典*2を開いてみると、Rotis の書体設計についてこう書かれている。

つまりアイヒャーの基本設計とは、個々の単語が長くて、名詞の書き出しを大文字にするという、ドイツの正書法にそって設計されたものであり、ドイツ語を印刷するために、しかもドイツ語の判別性と可読性を強く意識したものであったことがわかります。

欧文書体百花事典 Rotis p.514

Rotis はこの考え方を基にして、a-z レングス*3が短くなるように、また大文字の字幅も小さくなるように作られている。駅のサインでは、地名や路線名などローマ字が多く使われるが、このような日本語の固有名詞は一語が長くなりやすい。また大抵の場合、どの語も頭を大文字で表示する。そう考えてみると、サインはドイツ語の文章と似通った面があるのかもしれない。さらに Rotis はエックスハイト*4がやや高めなので、小文字が大きく見えてサインには好都合なのだろう。

特にサイン計画で使っているものが多い。少し前だと、みなとみらい線、最近だとTX、万博会場等。サイン計画にふさわしい文字なのでしょうか?だいたいはサンセリフ系を使っているけど、万博はセミセリフだった。

http://rainbowrising.heteml.jp/2005/09/nadja_auermann_book.html#comments

愛知万博も Rotis だったのか。下のページに写真と解説があった。

http://exposition2005.hp.infoseek.co.jp/SF/sign_display.html

ちなみに、和文の方はリョービのナウ-MB。

リョービMHIグラフィックテクノロジー株式会社の創業について|ニュース|RYOBI |リョービ株式会社

そういや今日のポスター*5もスライドも、Rotis + ナウ(明朝系)だったよなぁ……。

*1:ちなみに、中国語は簡体字で表示されることが多いが、小田急では繁体が使われている。

*2:初めて手に取ったが、これはデカい。

*3:小文字のaからzまでを並べた長さ、すなわちabcdefghijklmnopqrstuvwxyzの長さを、a-zレングスという。wikipedia:書体

*4:a、c、x などの小文字の高さ。ベースラインとミーンラインの間。文字通り、xの活字の高さ(ハイト)から来ている。wikipedia:書体

*5:オトル アイヒャー タイポグラファと「ホモ ポリティクス」の画像・PDF 参照。