『日本語のデザイン』
- 作者: 永原康史
- 出版社/メーカー: 美術出版社
- 発売日: 2002/03/26
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 10回
- この商品を含むブログ (19件) を見る
図書館から借りてきて読了。131ページ。日本人が文字を使い始めてから現在に至るまでの文字・印刷を、かな(女手)を中心にして時系列で概観する。カラーの図版も多く、わかりやすい。
江戸時代の印刷物などは、個人的には今まで見る機会があまりなかったが、こうして見てみるとなかなか読みにくい。時代的にはわずか200年・300年ほど前のものであっても、平安期のものと比べて読みやすい訳でもない。それでいて江戸時代には男子の識字率が60%*1というから、なかなか凄い。もちろん漢字には振りがなが振ってあったりするのだが、変体がなの使用や崩し・連綿は当たり前である。当時の文字観は、現代のものとはかなり違っていたのだろう。
江戸時代には活版印刷はあまり行われず、整版が主流だった。この理由として、「文字種が多い」「連綿を表現するのが難しい」といった要因は簡単に思い浮かぶが、識字率の高さが逆に活版の普及を妨げていたという指摘*2はおもしろい。この他にも、活字印刷機が普及しなかったこと、幕府にとって出版物の管理が難しくなること(組み替えや解版が自由なため、出版の責任が不明確になる)が、要因として挙げられている。
この整版の台頭によって、絵と文が主従なく混在する独特の様式が生まれた。活版が主流となったヨーロッパでは、あまり見られないものである。黄表紙によって完成したこの様式を、著者は「画文併存様式」と呼び、「日本語のデザインのもっとも重要なスタイルのひとつ」*3としている。本文中で挙げられている黄表紙の画像は、東京大学附属図書館・電子版霞亭文庫でも見ることができる。
現代の漫画に通じるものがある――というのは、ちょいと言い過ぎか。