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16000字超の漢字と11000字超のハングルが入った軽量CJKフォント Droid Sans Fallback

携帯用プラットフォーム Android の開発キット(無償)というものがあって、その中に Droid という書体のファミリーが入っているらしい。

というわけで、(例によってフォントを見るためだけに)下のページから早速ダウンロードしてみる。

zip を開けて、tools/lib/fonts/default/ の中にフォントファイルを発見。中身は以下のとおり。

  • Droid Serif
    • Regular, Italic, Bold, Bold Italic
  • Droid Sans
    • Regular, Bold
  • Droid Sans Mono
    • Regular
  • Droid Sans Fallback
    • Regular

この Droid ファミリーは、Ascender Corporation の Steve Matteson が制作したものらしい。ライセンスは Apache License 2.0 になっている。

で、注目すべきはタイトルにも書いた Droid Sans Fallback。大量の漢字とハングルを収録したCJK用フォントになっている。

The Droid Sans regular font also includes support for Simplified and Traditional Chinese, Japanese and Korean support for the GB2312, Big 5, JIS 0208 and KSC 5601 character sets respectively.

Ascender creates the new Droid font collection for Open Handset Alliance's Android platform

もちろん、ひらがな・カタカナもちゃんと収録されているが、デザインが若干ぎこちない。おそらくは華康ゴシック体のかなと同じもの。また、漢字の筆画処理が大陸風なので、日本語の表示には難があるかもしれない。


それでも、こういった大規模なゴシック体がフリーで配布されているんだから、やっぱりすごい。

さて、この Droid Sans Fallback には、大きな特長がもうひとつある。それは「ファイルサイズが小さい」という点。全体で3万字弱もの文字を収録しているのに、ファイルサイズはたったの3MB。携帯用フォントなので、ここまでコンパクトに作られている。

それを可能にしているのが、分合活字的なグリフの組み立て方。

上の画像は、ためしに「蔒」という漢字を FontForge で開いてみたところ。glyph31874, glyph42395, glyph32087 と小さく表示されている。実はこのグリフ、 アウトラインの情報はまったく入っていなくて、「glyph31874 がこの位置、glyph42395 がここ、で glyph32087 がこっち」という感じになっている。つまり、実際にアウトラインの情報が入っているのは glyph31874, glyph42395, glyph32087 の方であって、「蔒」ではそれらを呼び出すだけになっている。

部品用のグリフ*1(のごく一部)をみてみると、こんな感じ。

上の方はハングル用の部品で、下の方が漢字用の部品。同じ部品であっても、大きさのバリエーションが何種も用意されていることが分かる。単純に見えるハングルであっても、2071個もの部品グリフが用意されている。漢字用の部品はさらに多く、11945個。一つの部品を複数の漢字で使いまわすことによってムダを削り、3MBというサイズを実現している。ここまで大量に部品があれば、デザイン上の制約も少なくなる。

もちろん、部品グリフの組み合わせではどうにもならない漢字もある程度はあるので、その場合には普通にアウトラインが入っている。下の画像では、青い印がついている漢字がそれにあたる。

こうした漢字は、それ自身が部品になるような基本的な漢字か、あるいはちょっとひねくれたような漢字か、大抵はそのどちらか。ひねくれた漢字はどうしようもないが、基本的な漢字の方は当然ながら、教育漢字とか常用漢字とかJIS第1水準だとか、基本的な漢字集合に含まれていることが多い。逆に言えば収録する漢字を増やしていくとき、新しく増えるのはだいたいが「基本的な部品の組み合わせでできた漢字」になる。そうやって考えてみると、部品を組み立ててグリフを作るこの方式は、やはり大量の漢字を収録してこそ真価を発揮するのだろう。

Droid Sans Fallback、なかなかおもしろいフォントだ。

*1:これらのグリフにはコードポイントは割り当てられておらず、部品専用になっている。