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文字についてあれこれと。

妛芸凡(あきおうし)はやっぱり誤植?

「幽霊文字」の代表に、「妛」という漢字がある。Wikipedia幽霊文字の項には、こんなことも書かれている。

前述の「妛」は構成する文字要素から通称「やまいちおんな」と呼ばれ、「𡚴」(山かんむりに女と書き「あけび」と読む)の誤字とされているが、この「誤字」にも「妛芸凡(あきおうし)という苗字が存在した」という都市伝説にも似た話が丹羽基二の著書『苗字 この不思議な符牒』(芳文館)に存在する。とはいえ、同著者同出版社の『日本苗字大辞典』では「𡚴」の字が使われており、『苗字 この不思議な符牒』自体が誤植もしくはJIS基本漢字による印刷が行われた可能性もある。

幽霊文字 - Wikipedia

丹羽基二の著書『苗字 この不思議な符牒』(芳文館) とあるが、ざっと調べてみてもそのような書名の本は見つからない。芳文館のページを見てみると、『苗字のはなし(II)』*1という本の第一章のタイトルが「苗字―この不思議な符牒」となっているので、Wikipedia が言っているのはこれのことだろうか。

さて、この「苗字―この不思議な符牒」だが、『電脳文化と漢字のゆくえ』*2平凡社)という本の157〜168ページにも、丹羽基二による同タイトルの文章が収録されている*3。そして、ここに問題の「あきおうし」という姓も発見。

右の画像はこの「苗字―この不思議な符牒」から採ったもの*4だが、Wikipedia の記述にあるように「𡚴」ではなく「妛」となっている。というわけで、下の二つの可能性が考えられる。

  • (a) 実際の苗字は「妛芸凡」
    • 『日本苗字大辞典』の「𡚴芸凡」は誤植。
    • 『苗字の〜』『電脳〜』所収「苗字―この不思議な符牒」に見える「妛芸凡」が正しい。
  • (b) 実際の苗字は「𡚴芸凡」
    • 『日本苗字大辞典』の「𡚴芸凡」が正しい。
    • 『苗字の〜』『電脳〜』所収「苗字―この不思議な符牒」に見える「妛芸凡」は誤植。

これだけだと何とも言えないが、『電脳〜』の当該箇所から数行遡ってみると、こんな記述があったりする。

苗字に用いられた文字で、漢和辞典、国語辞典、ワープロ(JIS第一水準、第二水準、および補助漢字等)には見られない字をもう少し上げて*5みる。(もっとも、特殊な辞典等には一部あるものもある。)その多様性を知っていただきたいからだ。*6

丹羽基二「苗字―この不思議な符牒」(『電脳文化と漢字のゆくえ』 p. 165)平凡社、1998年

つまり、漢和辞典、国語辞典、ワープロ(JIS第一水準、第二水準、および補助漢字等)には見られない字 の例として「妛芸凡」が挙げられているということだ。「妛」はJIS第二水準に収録されているので、やっぱりこれは

  • (b) 実際の苗字は「𡚴芸凡」
    • 『日本苗字大辞典』の「𡚴芸凡」が正しい。
    • 『苗字の〜』『電脳〜』所収「苗字―この不思議な符牒」に見える「妛芸凡」は誤植。

なような気がする。

↓ ※こちらもご参照ください※

*1:isbn:499005847X

*2:isbn:4582403220

*3:ただし『苗字のはなし(II)』は読んでいないので、内容まで同じなのかは不明。『電脳〜』は1998年1月発行、『苗字の〜』は同年11月発行。『電脳〜』には、この文章が書下ろしか否かについては書かれていない。

*4:『電脳文化と漢字のゆくえ』 p. 165

*5:「上げて」は原文ママ

*6:このあとに、画像の「妛芸凡」を含むリストがつづく。