「JIS Z 8305 活字の基準寸法」の解説の鯨尺説
「JIS Z 8305 活字の基準寸法」という規格がある。この規格では1ポイントを0.3514mmと定め、これを基準にして活字の大きさ(ボディの縦の寸法)を規定している。ここでは、「初号」「五号」というような号数活字の大きさも、ポイントに換算されて示されている。
この規格に附属している「解説」には、号数制の大きさの由来について言及した箇所があるが、三谷幸吉が提唱した鯨尺説を(当たり前のものとして)採っている。
すなわち、号数制活字の創始者本木昌造は、鯨尺1分を基本活字の大きさとし、これを5号と名付け、上下に2厘5毛または5厘の差をつけて、初号から7号まで8種類の大きさを決めた。しかし、この基準が秘密にされたので、後になっては正確な寸法が不明となり、ただ前に作った活字を模倣するしかなく、同じ号数でも製造所によって大きさが異なっていた。いわゆる「大きさがあって寸法がなかった」のである。
この規格は1962年に制定され、以来一度も改正はされていない。そのため、90年代になって小宮山博史が提唱した美華書館からの輸入説は、当然ながら触れられていない。
金属活字は工業製品としての役目を終えつつある(既に終えている?)ため、今後この規格が改正されるとも思えないが、現在でも有効な規格である。この解説は時代の狭間に取り残され、このまま生きていくんだろうか。