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ヒロインが書体デザイナーな小説がある

といっても書体に関するくだりはほんの数行しかなく、しかも本編中のヒロインはまだ中学生ですが。中里十の『君が僕を 4』という本がそれ。以下、ネタバレを避けたい人は回れ右推奨。

君が僕を 4 (ガガガ文庫)

君が僕を 4 (ガガガ文庫)


この本のプロローグでは、主人公の娘によって主人公やヒロイン(真名)たちのことが語られており、時系列的には本編(主人公たちは中学生)の半世紀ぐらい後(?)になっている。その中に、以下のようなくだりが現れる。

昔、台湾に旅行したときのことだ。料理店で出されたメニューに日本語が併記してあった。その書体に驚いた。幽霊に出くわしたような気がした。真名のデザインした書体だった。

真名は書体デザイナーだった。若くして死んだのに、本文用の書体を任されて完成したのだから、有能だったのだろう。止め撥ねの控え目な素っ気ない書体だった。私のような素人にも見分けがつくほど特徴のある書体だった。台湾の料理店で出くわすまで、私はその書体をサンプル以外で見たことがなかった。

中里十『君が僕を 4』小学館、2010年、p. 17

本文用で素っ気ないのに素人でも見分けがつく書体、といわれると一見矛盾しているようにも見えるけど、そんな性格を兼ね備えているなんて、書体としては結構理想的なような気もする。どんな書体だか想像がふくらみますね……。

あと、サンプルでしか見かないようなこの書体をメニューに採用するだなんて、メニューを作った人はなかなかのツワモノです。しかも台湾って。

ちなみに、真名が達筆だという描写は『君が僕を』シリーズのなかにちらほら出てくるものの、書体デザインに関するくだりはこの引用部分のみ。それにしても、ここに出くわしたときはかなり「おおおおっ」となりました*1

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*1:でも肝心の本の内容については地味に難解で消化不良気味……。書体とは全く関係ないけど同氏の『どろぼうの名人』はお気に入り。